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仕事から学んだこと – 第二回

「どのような会社が良い会社だと思いますか?」

「365 日、リクルーティング(採用)している会社だと思います。」

円相場が 1 ドル 250 円前後からまたたく間に 100 円台までに達した頃、社会人成り立ての私の素朴な質問に答えて下さった。1984 年に実需原則(実需を伴う為替取引)が撤廃され、急激な円高が進行するきっかけとなったプラザ合意(ニューヨーク プラザホテルで発表された5か国蔵相中央銀行総裁会議声明-1985 年-)の後、モルガン銀行の仕事に携わっていた時に、昼食時の会話で意見をお伺いした。

正直言って、当時は仕事が苦痛だった。大学を卒業したばかりで、金融取引にも精通し

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ておらず、書類のほとんどが英語。しかし、仕事上の担当の方々は、暖かく、とりわけ、

雰囲気が良かったと感じずにはいられなかった。外資系の金融機関に対して、何となく冷

たい印象を持っていたのだが、全然そんなことはなかった。部署内の壁には、各スタッフ

の一覧表の右端に誕生日(女性がいるので、年を省略し月日だけではあるが。)が貼って

あり、その日には皆でケーキを食べるという習慣もあった。

女性スタッフには、郵便局から転職された方もいらっしゃった。その方の御主人は商社

マンで、「私も外資系で働きたい」との願望から、電話帳から外資系の銀行に履歴書を送

られたとの話しを伺った。採用の要因になったことの一つに、「面接時にメモをとってい

たこと」があったらしく、真面目だという好印象であったという。その方は、その後、ご

主人の転勤の関係からニューヨークに引越しされ、日本での勤務実績もあって、モルガン

銀行本店勤務になられた。面接試験でメモをとりさえすればよいとの事ではないと思うが、

採用側も応募側も学ぶべきエピソードではないかと思う。

社会にあって最重要なのが人材であると言われている。いざという時に人が見当たらな

い、という声をよく聞く。一年中採用活動をすることが良いかどうかはともかく、絶え間

なく人材を見つけて育てていこうとの姿勢が大切ではあるまいか。

 

私の普通預金通帳の残高はいつもマイナスです。「どういうことですか?」

当時は定期預金の金利が大体5%、普通預金の金利が2%ぐらいだったと記憶する。

その方の論理は、48万円を1ヶ月の給料として、

(1)定期預金の金利 = 48万 * 5% ÷ 12 = 2000

(2)借入の金利 =(48万÷2)* (5+0.25)% ÷ 12 = 1050

(3)普通預金の金利 =(48万÷2)* 2% ÷ 12 = 400

(1)-(2) > (3) だと言われる。つまり、まず一ヶ月の給料を、全額定期にし、その定期を担保にしてマイナスにしていけば、使っていくお金が平準化されている限り、定期を担保にした借入が、0.25%の上乗せなので、普通預金より有利ですよ、とのことであった。

最初はチンプンカンプン。

なんとか理解はできたものの、給料日の 25 日の預金残高が、月末にはほとんどさみしくなってしまう私には無縁の話しでもあった。

他の方にこの話を聞くと、「みんなそうしてますよ」。これまたびっくり。世界的な銀行で働いている方は違うなと思い、この方々には金融や数字にはかなわない、「餅は餅屋」に任せるのがよいとの考えが芽生え始めたのもこの頃であった。

 

親交を続けた方の結婚式の披露宴に出席した時のことである。座席表には、様々な外資系の金融機関が記されている。「なぜ、競争会社の人達が同じテーブルに?」とびっくりしたものであるが、聞いてみると、皆かつての同僚とのことである。

外資系金融機関での人の移り変わりは激しい。ある外資の金融機関では、平均在職年数2年未満というところもあるようである。また、他では辞職を申し出ると、まるで流れ作業のようにたった1日で円満退職できるところもあるという。

企業そのものの変化も著しい。モルガン銀行もチェースマンハッタンと合併し、JPモルガン・チェース銀行(平成 13 年 11 月)となり、日本での金融機関の再編も激しいのは周知の通りである。

リストラにあったり、会社が倒産したり、合併したり、自ら転職すべきと考えたり、仕事に関わる悩みは尽きない。特に、自ら転職すべきという岐路に立つと、相談しても、なかなか納得にいく正解には辿り着かない。

嫌な事が続くとストレスもたまり、転職には色んなことを考えるものである。家族を養っている人は当然生活があり、将来性、キャリアパス、数え上げればきりがない。また、仕事としてはよかっても身近に嫌な人がいるとか、とかくうまくいかない。

次の指導を聞いたことがある。「仕事の条件は、(1)給料がよくて(2)やりがいがあって(3)社会に貢献できるもの。この3つが揃えばいいが、なかなか揃わない、ではどうすればよいか、今いるところでなくてはならない人になりなさい。そうすれば、自然と道は開けていくものだ」。なくてはならない人に。そう心がけて毎日を送っていきたい。
1999年5月記

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